第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
最初は、観戦してただけだった。
けれど、気がついたら――私はカードを握らされていた。
『えっと……これ、出していい?』
「ちょ、おま、また!?マジで!?」
場にいた全員が、一斉に私を見た。
3戦目の大富豪。私がまた勝ったらしい。
「ウソだろ、また階段革命……!?」
スピナーが頭を抱えて崩れ落ち、
「ぐはっ……完敗……」と、コンプレスが仰々しくカードを伏せる。
トゥワイスは「3戦連続でカゼヨミに負けた……」と嘆き、
トガは「カゼヨミちゃん……ほんっとに初めて?」と目をまんまるにしていた。
『……ルールは、コンプレスに聞いた』
「いやいやいや、ルールだけで勝てるならおれら全員負けてない!!」
最初の1戦は、「やっぱり一緒にやろ」って無理やり座らされて、
2戦目は「ちょっと運いいだけでしょ?」と続投させられて。
そして今、3戦目。
私はまた勝っていて、みんなは困惑している。
「……なんかさ、強運とかそういうレベルじゃなくない……?」
「カード、透けて見えてる?それとも時を操って――」
「やーめーろー!怖い怖い!!」
“カゼヨミ最強説”が、謎の広がりを見せ始めていた。
私はただ、大富豪をやっているだけなのに。
『……勝っちゃ、だめだった?』
「それが一番腹立つのよ!!」
そんな騒ぎのなか。
唐突に、左肩に重みが落ちた。
肩越しに、息がかかる距離。
振り向かなくても、わかった。
「楽しそうだな」
低くて、乾いた声。
その声と一緒に、熱を孕んだ手が肩へ――絡みつく。
『……ッ』
思わず、背中が硬直した。
心臓の音が、妙に大きくなる。
「おやおや? 荼毘くん、ついに割り込む気かい?」
「よーしよし、いっそ混ざれ混ざれ!チームバトルだな!」
コンプレスとトゥワイスが冷やかすように声をあげ、
スピナーも「おまえトランプ興味ねーだろ……」と苦笑していた。
けれど、荼毘は何も言わず。
ただ、肩に手を置いたまま、私の耳元で静かに笑った。
『……な、に?』
「んー、別に」
肩にあった手が、するりと抜ける。
「見て思っただけさ。……溶け込んでんなって」
まるで他人事のような口ぶりで、それでもどこか――
どこか、嬉しそうに言った。
返す言葉が、見つからなかった。
でもその一瞬、
温度を持たないはずの部屋が、少しだけあたたかく感じた。
