第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
がやがやと、部屋の隅から聞こえる賑やかな声。
トランプのカードがばさっと床に散らばって、トゥワイスが「うおおおォ!?おれのジョーカーがああァ!!」って叫んでた。
それを横でトガがけたけた笑ってる。
「仁くん、それわたしの♡って言ったのに、ねー!」
「いやいやでもそれはオレの手札のつもりだったしィ!?これはオレのなかで二重人格裁判だなァ!!」
「……おまえのなかのもう一人は、なんて言ってるんだ?」
「どっちも負けたがってるらしい!」
スピナーがあきれたように息を吐き、カードを拾いながらコンプレスが笑った。
「トランプなのに演劇じみてるな。まったく、娯楽が極端すぎるぞこの部隊は」
「でもこういうのがいいんですよ。戦いばっかじゃ、疲れちゃいます♡」
私は、少しだけ距離を置いた場所に座っていた。
笑うでもなく、加わるでもなく。
でも、前みたいに背を向けたりはしていない。
視線は自然と、あの輪に向いていた。
トランプがぐちゃぐちゃに混ざる音、みんなの声。
それはどこか、学生時代の教室を思い出させた。
……あの頃の私が、ひどく遠く感じる。
「……」
ふと、視線を感じて横を見れば。
こちらもまた、輪から離れた場所――部屋の陰――
その壁にもたれるようにして、荼毘がこちらを見ていた。
『……何?』
静かに問いかけても、彼は何も答えない。
ただじっと、青い炎のような目で私を見ていた。
睨んでるようで、そうじゃない。
探るようで、でも、それともまた違う。
少なくとも――あの目は、「敵」に向けるそれじゃなかった。
私は、視線を戻した。
そこにはまだ、トランプを囲んでいる彼らがいた。
ふと、トガがこっちを見て笑った。
「カゼヨミちゃんもやりますー?まだ席ありますよ?」
『……いい。見てるだけで十分』
「んー、じゃあ見ててねぇ?勝つから♡」
きっと、今の私は。
完全には“中”じゃない。でも、もう“外”でもない。
それを一番、私自身が分かっていた。