第21章 君に贈る、ひとときの奇跡
想花side
公安の足枷が外れた、あの日。
私は、ここに残ることを選んだ。
理由なんて、うまく説明できない。
ただ、この場所で見たものが、私の知ってる「悪」とは、少し違ったから。
誰かを守ろうとしてる人もいた。
誰かを信じてる声もあった。
それを、見てしまったから。
もちろん、全てを信じてるわけじゃない。
でも――もしも少しでも。
彼らの中の、何かを守れる可能性があるのなら。
私がここにいる意味も、きっと、ある。
「よお、今日もおはようだぜカゼヨミ〜!」
トゥワイスが、バンと肩を叩いてくる。少し力の入ったその手が、じんと熱を残す。
そのすぐあと。
「今日もかあいいですねぇ、カゼヨミちゃん♡」
横から覗き込むように、トガの顔が近づいてきた。
目が合う。彼女の瞳は、揺れずにまっすぐだった。
『……2人とも、おはよう』
静かにそう言って、私はその場に立ち続ける。
ほんの一歩も、下がらずに。
それだけで、ふたりの空気がふっと変わった。
「……お、おおお……⁉︎」
目を見開いて驚いたように、トゥワイスが私の顔をまじまじと見つめる。
「え、今の“おはよう”って、マジのやつ……?じゃあ今日は……今日は……」
「壁がないカゼヨミちゃん……⁉︎」
隣でトガが、小さく口元を覆ってにやにや笑いながら私を見ていた。
「仁くん……これ、夢です?」
「いやでも現実じゃないか……痛っ、現実だ!ほら、さっき俺、触ったし!」
トゥワイスが自分の頬をパチンと叩いて騒いでいると、
トガがくすっと笑った。
「でも嬉しいです」
『……そう?』
「うん、すごく」
トガはにこっと笑って、何でもないみたいに言った。
「わたし、あなたと一緒にいるの、すごく好きだもん」
「おれもだぜ!家族みたいなもんだろ?なァ?」
トゥワイスががしっと腕を組もうとして、私はその動きにほんの少しだけ肩をすくめた。
でも――拒絶は、しなかった。
でも私は、笑わなかった。
けれど、ほんの少しだけ頷いた。無意識に。
「さ、今日も集合ですよ!あの部屋、行きましょー♡」
「遅れるとまた荼毘にどやされるからなァ〜!命大事に!」
ふたりの背中を、少し遅れて追いかける。
仮面はまだ、外さない。けれど――
その内側の私は、確かに少しずつ、
“誰か”へと近づいていってる気がした。
