第20章 仮面と素顔
……なんでだよ。
“もう1人の潜入者との連絡が、途絶えた”――
たったそれだけの報告に、心臓がざわつく。
顔も、名前も、知らされてないはずだった。
知る必要はないと、言われていた。
けど、思い出すのは“彼女”だった。
想花。
あの夜、自分の右手を取ったときの、震える指。
笑顔を作ろうとして、崩れた唇。
……まるで、泣き出す寸前だった。
でも何も気づいてないふりをした。
あの子はずっと、“平気です”の仮面をかぶってたから。
公安に言われたんだ。
「彼は君を守ろうとするだろう。だが、誰が彼を守る?」
「君が任務を受けてくれるなら、彼の安全は保証する」――って。
あの子は、信じた。
だから全部、受け入れた。
心臓のすぐ近くに、あんなもん埋め込まれてまで。
あいつは、俺のために……。
喉の奥が焼ける。
もし、もし今──
“反応がない潜入者”が、彼女だとしたら?
俺の知らない場所で、命を落としていたとしたら?
全部、公安の“言葉”に乗っかった俺が、
彼女を殺したことになる。
「……っくそ……」
吐き出すように、声が漏れた。
目の奥に浮かんだ光景は、初めて見たあの日の彼女。
あの、手を伸ばしてくれたときの、あたたかさ。
それを思い出すだけで、息が詰まる。
(頼む、違ってくれ……)
(生きててくれ……)
俺はまだ、何も守れてないんだ。