第20章 仮面と素顔
ホークス side
空気が冷たいわけじゃねぇのに、やけに肌に刺さる。
地下の無機質な会議室──コンクリ打ちっぱなしの壁に、反響する足音すらない。
椅子に腰かけた俺の前には、公安の担当者が一人。仮面めいた無表情。
何度会っても、こいつの顔からは“人”の匂いがしない。
「今後の連絡はすべて暗号に切り替える。音声・映像を含む直接的な通信は即時停止。紙媒体も廃止する。……指示は次回から、例の“方法”で送る」
声すら、機械じみてる。
俺は軽く顎を引いて頷くと、椅子の背にもたれた。
「ずいぶん慎重だな。何かあったのか?」
──わかってたけど、あえて訊いた。
公安の男は、一拍だけ間を置いてから、淡々と告げた。
「もう一人の潜入協力者との通信が、途絶えた」
「……は?」
「最終連絡を最後に反応なし。監視用ビーコンも反応を失った。……敵勢力に感づかれた可能性が高い。生存の確証はない」
一字一句、濁さない。
感情なんか一切ない。
まるで“物”が壊れたかのような報告。
俺は黙ったまま、机に肘をつき、指を組む。
(……連絡が、途絶えた?)
潜入者がもう一人いることは前から聞かされてた。正体は教えられなかったが……公安が“手札”を失ったということだけは、確かだ。
「……消された、ってことか」
低くつぶやいた声が、自分のものとは思えないほど静かだった。
その誰かが誰かなんて、知るよしもない──はずだったのに。
なのに、今のこのざわつきは何だ。
何かが、胸の奥を引っかいたまま、言葉にならなかった。
公安の男はさらに続ける。
「以降、お前の任務優先度は繰り上げられた。“カゼヨミ”を含む幹部の全行動パターンを追え。特に新顔の女──その動きに注意しろ」
……また、その名前だ。
さっき出会ったばかりの、あの風をまとった少女。
“カゼヨミ”。
今は、そいつの顔しか浮かばなかった。