第20章 仮面と素顔
想花side
小さく呼吸を整えて、私は服を元に戻した。
心臓の上――そこにあった、重たい“枷”がようやく外れた。
さっきまで、ずっと泣いていたのに。
頬に残る涙の跡も、その熱さも、まだ消えてないのに――
不思議と、今は笑えていた。
『……ありがとう、圧紘さん』
そう言って、私はしっかりと彼を見た。
“ありがとう”なんて、何度言っても足りない。
それでも、今の私はきっと――
一番まっすぐに、それを伝えられてる気がした。
『……よし、決めた!』
勢いよく立ち上がると、私は肩の埃を払って振り返る。
圧紘さんが見上げるようにして、少し目を細めた。
「……おや、何を決めたんだい?」
楽しげな声音。けれど、その目は真剣だった。
私は、まっすぐに答えた。
『……これからは、私の守りたい人を守ることにする』
『クラスメイトだけじゃなくて――圧紘さん、あなたも』
一瞬、彼の表情が固まる。
仮面のない素顔のままで、彼はぽかんとしたように私を見上げて――
それから、少しだけ困ったように笑った。
「……ちょっと待て。それ、敵にも向ける台詞かい?」
『“敵”って……いま言う?』
「一応はそうだろ? 君は“ヒーロー”の卵で、俺は“ヴィラン”の残党で――」
でもそこまで言って、圧紘さんはふっと目を細める。
どこか寂しげで、でもどこか嬉しそうで。
「……まぁ、君がそう言ってくれるなら、ありがたく守られておくとしようか」
『うん!』
私は笑った。心から、自然に、晴れたような笑顔だった。
“敵”も“味方”も超えて――
私は、私の意思で、守りたい人を守る。
それが、今の私にできる、精一杯の“ヒーロー”の形だった。