第20章 仮面と素顔
少しだけ落ち着いた呼吸を吐いて、
私はそっと、隣に座る圧紘さんを見上げた。
『ねぇ――ひとつだけ。助けた借り、ここで返してくれない?』
そう言いながら、私はゆっくりと服の前を指でつまむ。
心臓より、少し上。
服を少しだけ引き下ろして、肌を露わにする。
「……ちょ、ちょっと待って!?ちょっと!?待って!?!?!」
横の圧紘さんが一気に慌てだして、手をぶんぶん振っていた。
「君はたしかに綺麗だし、もちろんそれは男として嬉しいけど、そういうのはこう、もっと、ちゃんとしたタイミングでだな……!」
『は……何言ってるんですか』
さっきまで泣いていたのに、思わず呆れて笑ってしまった。
『ちがいます。ここ』
指で示す。
肌の奥――埋め込まれた異物。
『ここに、公安に付けられた追跡装置があるの』
「……!」
『お願い。個性で、この部分の皮膚を少しだけ“圧縮”して、取り出して欲しい』
それは、私の中の“枷”。
“あなたが従えば、大切なものは守られる”――
そう言った公安が、今、彼を危険の中に置いている。
だったら、もうこんなもの、必要ない。
『公安が約束を守らないなら、私も――従う理由なんて、ないでしょ』
ほんの少しだけ、唇を噛み締めながら。
私は、彼に向かって、まっすぐにそう言った。