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【ヒロアカ】re:Hero

第20章 仮面と素顔




硬い床にそのまま腰を下ろした私は、壁にもたれるようにして座っていた。
さっきからずっと、涙が止まらなかった。


圧紘さんは、隣に黙って座ってくれている。
何も聞かず、何も責めず、ただ、そこにいてくれる。

私は、震える声を押し出すようにして、ぽつりと言った。


『……何のために、ここまで頑張ってきたんだろうね』


手のひらで目元を拭っても、あとからあとから溢れてくる。


『自分さえ……犠牲になれば、
 大切な人は守れるって、ずっと信じてたのに……』


声が、喉の奥で詰まった。

苦しくて、悔しくて、寂しくて。
いろんなものが渦巻いて、どうしようもなかった。

そのときだった。

ぽん、と。
私の頭に、あたたかな手のひらが置かれる。

優しく、髪を撫でてくれた。

驚いて、思わず顔を上げると――
仮面を外した圧紘さんの素顔が、真横にあった。

鋭さの中に、どこか穏やかさを宿した目。

……敵だなんて、思えなかった。


『……お父さんって、こんな感じ……なのかな』


自分でも、思わず口からこぼれた言葉にハッとしたけど、
そのぶん、胸の奥にある痛みがほんの少しだけ、緩んだ気がした。

 

「ちょ、ちょっとショックだなそれ。おじさんだけどさ、まだ三十代だよ?」

そう言って、圧紘さんがちょっと焦ったように笑った。

『ふふ、ごめん……じゃあ、お兄さん、で』


彼の肩に、少しだけ頭を預ける。

たったそれだけで、
心の底にあった“ひとりぼっち”が、
ほんの少しだけ溶けていく気がした。
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