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【ヒロアカ】re:Hero

第20章 仮面と素顔


想花side

 

扉を閉めた瞬間、膝の力が抜けた。

背中がドアに当たる音と同時に、私はその場に座り込む。

 

静かだった。

けれど、頭の中は何ひとつ静かじゃなかった。

 

さっき聞いた、あの声。

あの笑顔。

そして、手を取られたときの、温度。

 

久しぶりに触れた、彼の“現実”に――

胸が締め付けられる。

 

ずっと欲しかったものだった。
もう、二度と会えないかもしれないと思っていたものだった。

 

それが、こんな形で。
敵として。潜入中の“偽りの姿”で。

あの人に会ってしまうなんて。

 

 

『……っ』

 

堪えきれなくて、声が漏れた。

目元を手で押さえる。
でも、零れ落ちるものは止まらなかった。

 

思い出すのは、あのとき公安に言われた言葉。

 

「彼は、君を守るだろう。だが、誰が彼を守る?
…君が従えば――君の大切なものは、すべて守られる」
「それが、約束だ」

 

信じた。だから従った。

自分を犠牲にしても、彼を守れるならって。

 

……なのに。

 

今、彼は一番危険な場所にいる。
公安に言われた“約束”なんて、最初から存在しなかったんだ。

 

『じゃあ……私は、何のために……』

 

声が震えた。

何を守ってきたんだろう。
どこまで壊れて、どこまで犠牲になればよかったんだろう。

 

答えは、出なかった。

 

ただ、どうしようもなく――
彼に触れたあの一瞬が、今の自分を一番壊した。

 

そのときだった。


「……ここで泣くのは、君らしくないな」


ふいに、優しい声が落ちた。


顔を上げると、扉の前には――

Mr.コンプレスが、静かに立っていた。
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