第20章 仮面と素顔
ホークスside
「初めまして。ホークスです。……まぁ、知ってるとは思うけど」
右手を差し出したのは、ごく自然な動作だった。
ここじゃ俺は、“ヒーロー”じゃない。
仲間でもなけりゃ、敵でもない。
けど今は――「信頼されるべき協力者」を演じてる。
だからその手は、敵意じゃなくて、あくまで“仲間”として。
カゼヨミ。小柄な少女。
フードに顔を隠して、どこか影のある雰囲気を纏ってる。
言葉も表情も少ない。だけど……なぜだろう。目が離せない。
一瞬だけ迷った気配のあと、彼女はそっと手を伸ばした。
その細い指先は、手袋に覆われていて――
でも、触れた瞬間、はっきりと“そこにある”とわかる異物感。
(……硬い)
手袋越しに、薬指のあたり。
カチッと小さく、金属が指に沿っていた。
(指輪……?)
「……あれ?指輪、してんすか?」
気づいたら口に出てた。別に深い意味はなかった。
ただの雑談のノリ。いつも通り、空気を和らげるための無難な話題のはずだった。
……でも。
「えっ!?マジで!?見せてみろよカゼヨミ~~!」
トゥワイスの声が響いて、俺もつられて笑いかけた、そのとき――
『……す、すみません』
小さな声。
喉から絞り出すような、消え入りそうな声だった。
そして彼女は、するりと俺の手から逃れるように後ずさって――
そのまま、一言も言葉を足さずに背を向けた。
歩幅は一定。でも、どこかぎこちない。
肩がわずかに震えていた。
それを「気のせい」と片付けるには――何かが引っかかった。
「……逃げられたな、ホークス!」
トゥワイスが笑って言う。
俺も、それに笑顔で返した。演技で、反射で。
でも、胸の奥でずっと何かがざわめいてる。
(あれは……なんだ)
握手を拒んだわけじゃない。
でも明らかに、何かを触れさせたくなかった手。
指輪が理由なのか、それとも――
目を合わせなかった。
声が震えてた。
歩き方に迷いがあった。
全部が、一瞬の出来事だったのに、焼きつくみたいに残ってる。
「……変なやつ」
そう呟いた声も、どこか自分のものじゃないみたいだった。
――この時、俺はまだ気づいてなかった。
“どこかで会ったことがある気がする”なんて曖昧な感覚が、
一番触れちゃいけないものに、もう手を伸ばしてたことに。