第20章 仮面と素顔
ホークスside
俺は、誰にも見られない場所からそれを見ていた。
冷たい鉄の梁に身を預けながら、眼下の光景をただ、目に焼きつける。
――異能解放軍とヴィラン連合の結託。
あの死柄木が、あのリ・デストロと並んでいる。
その光景が現実だってだけで、肺の奥が少しだけ冷えた気がした。
もうとっくに、境界線は消えたんだ。
ヒーローとヴィラン。正義と悪。
そんな言葉じゃ、もう何ひとつ測れねぇ場所で――
彼らは、ひとつの“軍”になった。
スーツ姿の死柄木と、それを嬉々として紹介するリ・デストロ。
場に満ちる熱量は、ある種の“覚悟”に近い。
(……おいおい、こんなの、本気で笑えねぇぞ)
心の中でだけ呟く。
一斉に壇上に並んだ、9人の行動隊長たち。
知ってる顔もいれば、そうでない顔もある。
……そして。
その中に、ひとりだけ。
――完全に、資料にも記録にも存在しなかった人物がいた。
「……誰だ、あれ」
肩をすぼめるようにして立つ、小柄な少女。
深くフードを被り、その瞳の奥は読めない。
周囲と馴染むでもなく、でも、完全に浮いてもいない。
“カゼヨミ”と呼ばれていた。
風を操る、新入りのヴィラン。
……風、か。
どこかで、その言葉に引っかかりを覚える。
けれど何が、とはうまく言葉にできなかった。
ただひとつ、言えるのは。
あの場にいた誰よりも、彼女は――妙に静かだった。
嵐の前の、ひとしずくみたいに。
胸の奥が、何かを警告してる。
それが何か、俺はまだ言葉にできない。
でも――嫌な予感だけが、羽の奥でざわついていた。