第20章 仮面と素顔
思い出したのは、数ヶ月前の映像だった。
全国に流された、あのニュース。
ヒーロー・ホークスの熱愛報道。
相手は一般人を装ってたが――妙に護衛が堅く、顔もはっきりとは映らなかった。
でも、俺は知ってた。
その笑顔を、画面越しに見た瞬間、直感した。
“あれは、想花だ”。
人の中で、隠れるように、それでも幸せそうに笑ってる女。
俺の前じゃ、一度たりとも見せたことのねぇ、柔らかくてあったかい顔。
それが――ホークスと一緒にいる時だけ、浮かんでいた。
その笑顔と、さっきのカゼヨミの顔が、重なった。
違うはずの顔。変えられた容姿。
けど、“内側”までは隠しきれてねぇ。
……まさか。
まさか、こんな形でまた見ることになるとはな。
(ここで笑ったってことは――)
“敵の中”で、あの女が笑った。
俺たちに囲まれて、あいつらのノリに流されて――自然と、あの顔が出た。
それはつまり、少しはこの空気に馴染んでるってことだ。
ほんのわずかでも、こっち側に傾いてるって証拠だ。
壊さなくても、手に入るかもしれねぇ。
そう思った瞬間、胸の奥がざわついた。
もし、こっちに来るなら。
あの女が、笑って俺たちと並ぶなら。
……それはきっと、ホークスが“一番苦しむ形”だろ。
壊すより、深く刺せる。
そう思ったら――少し、笑いそうになった。
(“願い”の女、か。……さて、お前の“願い”は、どっちに転がる?)
彼女を“壊す”ことが復讐だと思ってた。
でももし、“壊さずにこちらに引き込む”ことで、ホークスを壊せるのなら。
……それも、悪くねぇ。