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【ヒロアカ】re:Hero

第20章 仮面と素顔



カチリ、と指がドアノブを捻ろうとした、その直後――
こん、こんと、静かにノックが響いた。

私は息を押し殺すように立ち尽くす。

(……今度は誰)

そっとドアを開ける。
そこに立っていたのは、赤いシャツと白い仮面を纏った――

「やあ、こんばんは。随分と人気者だね、君は」

Mr.コンプレス。

『……次は、あなたですか』

彼は仮面越しに、いつもの調子でふっと笑う。

「君の夜は、なかなかに慌ただしいみたいだね。
……まぁ、少し話そう。いいだろう?」

断る間もなく、彼は部屋に一歩入り込んできた。

私は無言のまま後退る。
背後でドアが閉まる音がして――空気がまた、微かに張り詰めた。

『……何の用ですか』

「実に簡単な話さ。――“風”を使った構成員なんて、君しかいないからね」

彼は何気ない仕草で、壁際に身を預ける。

「俺の身体が吹き上げられた時、正直――終わったと思ったよ。
でも……落ちなかった。君が、あのまま風で支えてくれたからだ」

『……何のことか』

「そういうと思ったよ」

くすりと笑う声と共に、彼は手を仮面へと伸ばす。
ひょいと器用に外し――素顔を見せた。

仄暗い灯りの下、淡く整ったその表情が露になる。
目元に浮かぶのは、軽薄さではなく、静かな礼の色。

「……“命を奪わなかった”。
それがこの世界では、もう“助けた”に等しい」

その言葉に、私は答えなかった。

否定も、肯定も、できなかった。

「俺はね……君に借りがあると思ってる。
前にも一度、死穢八斎會の騒動のときにも君に助けられた。……そうだろ?」

その言葉に、心臓がひとつ脈打つ。
けれど、私は――即座に切り返した。

『……誰かと勘違いしてませんか?』

目を逸らさずにそう言う。
声の調子も変えない。呼吸も乱さない。

『私は……死穢八斎會と関わった覚えはありません』

嘘を吐く。
意地でも、関係のない他人のふりを貫いた。

目の前の仮面の男は――ほんの数秒、私を見つめたまま黙っていた。

何を考えているのか、その目の奥までは読めない。
けれど――やがて彼は、仮面を手に……静かに微笑んだ。

「……なるほど」

その一言だけを残し、彼はゆっくりと視線を逸らす。

何かを受け入れたような、あるいは飲み込んだような――
そんな、大人の微笑みだった。
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