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【ヒロアカ】re:Hero

第20章 仮面と素顔



重厚な扉が音もなく開いた。

その奥にいたのは、
黒を基調としたスーツに身を包み、重々しく椅子に腰かける男――リ・デストロだった。

両足は、すでにない。
死柄木との一戦で失われたその痕は、まだ生々しい。

しかし、彼の背筋はまっすぐだった。
“敗者”という印象は、そこには一切なかった。

(……これが、異能解放軍の頂点)

私は思わず、呼吸を整える。

「……君か。“カゼヨミ”」

静かに、名前を呼ばれた。

『……はい』

私は一歩前に出て、軽く頭を下げる。

その様子を見ていた隣の男――トランペットが、口を開いた。

「彼女は、私が救われた現場で見た。判断も早く、力にも迷いがない。
前線で“目”となり得る者だと判断し、推挙いたしました」

リ・デストロは目を細める。

「“目”か……なるほど。君の判断なら、信用に値する」

「感謝します」

「……だが、私は言葉を信じない。“結果”で語る者だけが、信頼に値する」

その眼差しが、こちらを射抜く。

(……これが、“見る”ということ)

ただ静かに見つめられているだけなのに、
心の奥が見透かされていくような、冷たい感覚が背骨を伝う。

「その名。“カゼヨミ”と名乗ったな。風の名……風を読む者」

『はい』

リ・デストロの目が、微かに細められた。

「君の力、興味がある。“破壊”の風に、どう抗うのか見てみたい」

その言葉に、私も静かに返す。

『私は、“見過ごせない”だけです。何者であっても』

隣でスケプティックが、小さく鼻を鳴らすのが聞こえた。

(……この人、私を完全には信じていない)

でも――それでいい。

誰にも、信じられなくていい。
私は私の“想い”のためにここにいる。

(この場に、風を吹かせるのは私。…誰にも見抜かれずに)

リ・デストロが、ゆっくりと椅子にもたれかかる。

「今夜、全体戦力の再編がある。
君には“傍観者”ではなく、“関与者”としていてもらう」

『……承知しました』

その言葉の瞬間、確かに――
私の立ち位置が、“ただの構成員”から変わった気がした。

「行こう。デストロ様、次の指示を」
トランペットが低く促す。

『……はい』

歩き出す彼のあとを追いながら、私は最後に一度だけ振り返った。

リ・デストロの目が、まだ私を見ていた。

その視線の先で、風が微かに渦を巻く。
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