第20章 仮面と素顔
群訝山荘――山間の奥深くに構えられた、異能解放軍の本拠。
その一角にある簡素な会議室で、異能解放軍とヴィラン連合の主力が向かい合っていた。
異能解放軍の幹部陣、そしてヴィラン連合の主力。
その中心に――リ・デストロが座る。
両脚のない彼は、黒革の椅子に静かに腰かけ、手元に重厚な資料を置いている。
そのすぐ側、立ち尽くす“風”。
私は言葉を持たず、ただそこに立っていた。
立ち位置は、トランペット――花畑のすぐ横。
この会議の“正式な幹部”として、紹介された位置。
――と、そのとき。
「よぉ」
あの声と共に、乾いた足音が響いた。
「また会ったな」
荼毘。
その声に応えるように、私はほんの少しだけ頭を下げる。
「知り合いですか?」
ふいに、トガが身を乗り出して言った。
隣のトゥワイスも、無邪気な調子で続ける。
「なぁなぁ、カゼヨミ!荼毘の知り合いか?
あ!さてはお前ら"元恋人"だろ!」
トガの問いに、荼毘は肩をすくめた。
「……ちげぇよ。 なぁ? "カゼヨミ"」
視線が鋭く刺さる。
でも――こちらは一切動じない。
違う人物になりきる。徹底して、感情を排除する。
トランペットが視線を横に滑らせる。
「問題ない。彼女は“こちら側”の人間だ。数日前、私を救ってくれた」
「ふうん……」
誰かが鼻を鳴らした。
デストロが、それ以上の会話を許さないように手を上げた。
「……時間だ。隊長の選出に移ろう」
広がる静寂。
ヴィラン連合と異能解放軍を混ぜた構成員によって、新たに“行動隊”が編成される。
名を呼ばれた者が、次々に席を立っていく。
荼毘、トガ、トゥワイス、Mr.コンプレス、スピナー、
トランペット、スケプティック、外典、残り一隊――
そして。
「最後は“カゼヨミ”」
ぴたり、とすべての視線がこちらを向いた。
『……了解しました』
短く、それだけ告げて私は歩み出る。
ただ“風のように”。何者でもない、“ただの武器”のように。
(――紛れ込めた)
会議は静かに、そして無事に終わりを告げる。
すべてが動き出す。
巨大な“敵”としての、統一された意志が。
私はその中心にいた。
(まだ……“誰にもバレていない”)
そう信じて、私は目を伏せた。
――この心臓の音を、誰にも聞かせるわけにはいかないから。