第19章 交差する影、歪む真実
ほんの一瞬。
けれど、確かに空気の密度が変わった。
“遠く”から、何かが――
とんでもない“質量”が――
一直線にこちらへ向かっている。
感覚では捉えきれない。
けれど本能が、脳に警鐘を鳴らしていた。
(……くる)
それが、何かはわからない。
でも――“ここにいるべきじゃない”と、身体の奥が叫んでいた。
私は、無意識のうちに立ち上がっていた。
そして、その“何か”が向かっている先へと視線を送る。
(あの方向……)
重厚なガラスと鉄で構成された高層ビル。
異能解放軍の中心。
リ・デストロ――あの男が指揮をとっている場所。
(……あそこへ向かってる)
そう感じた次の瞬間だった。
空気が爆ぜた。
遠くの地面が隆起し、ビルの根本から巨大な衝撃波が巻き起こる。
そして――
ビルが、崩れた。
一瞬だった。
重力に引きずられるように、ゆっくりと傾き、そして――轟音とともに倒れ込む。
まるで地面にめり込むように、ビルは粉々に砕けていった。
『……っ!!』
息が詰まる。
そこから始まるように、まるで連鎖反応のように――
周囲の住宅、道路、地盤そのものが割れ、“崩壊”していった。
音もなく、地形がねじれるように変わっていく。
(……何……?これ……)
震えそうになる膝を押さえつけ、私は屋根の上から身を引いた。
まだ、終わってない。
これは始まりにすぎない。
何かが来た。それも、最悪の――
(っ……まさか……)
喉の奥がひゅっと凍る。
(これ……死柄木の……“崩壊”!?)
瓦礫が音を立てて沈む。
都市が、まるごと、崩れていく。
それは、ただの地震や衝撃じゃない。
(……あのトゥワイスの個性だけじゃないってこと?)
(彼だけじゃない、ヴィラン連合……みんな――)
(――“力を増してる”ってこと……!?)
唇が、わずかに震えた。
(っ、逃げ場が……ない)
まるで都市そのものが、喰われていくような光景だった。