第19章 交差する影、歪む真実
崩壊の連鎖は止まらない。
街が、“底”からひっくり返されていく。
(……追いつく……あの“何か”が、全部を飲み込む)
風で浮かびながら、地上を見下ろす。
次の瞬間――瓦礫の波に飲まれそうなひとつの人影が目に入った。
(あれは……)
黒いスーツ。サングラス。スピーカーのような装置。
以前、資料で見た顔。
(トランペット……異能解放軍の、幹部……!)
彼は崩れゆく街路を必死に走っていた。
部下たちはすでに巻き込まれ、彼ひとりが走り続けている。
その足元に――ひび割れが広がる。
『っ……!』
迷いはなかった。
風が収束する。
彼の身体を、ふわりと持ち上げるように。
「――なっ……!」
彼が声を上げた瞬間、地面が真下で崩れ落ちた。
まさに紙一重の救出だった。
私はそのまま風に乗せて、崩壊から逃れたビルの屋上へと、彼をそっと降ろす。
「……誰だ、お前は」
彼は荒い息を吐きながら、こちらを見る。
『…最近あなたたちの一員になった者です』
「……」
彼はしばし黙って、そして微かに目を細めた。
「“最近”……ね。
その力、上に見せる価値があるな」
その一言が、風の中に落ちた。
(……っ)
たしかに、その視線は変わっていた。
私をただの構成員としてではなく、“選別の対象”として見る目に。
風がまた、髪をなぞる。
(……入れた)
異能解放軍の――“中枢”に。