第19章 交差する影、歪む真実
想花side
煙と叫びの狭間を抜ける。
息が上がり、肺の奥が焼けつきそうだった。
でも――立ち止まるわけにはいかなかった。
(……やっぱりどうかしてる。……)
あの目。あの声。
まるで心の奥底を覗くみたいに、ずっと前から私を知っているような、あの“感じ”。
(気づいてないよね……)
容姿も、雰囲気も変えている。
名前だって、誰にも伝えていない。
なのに――何故か、あの人にだけは“隠しても無駄”な気がしてしまう。
(……ほんとう、あの人には気を付けないと……)
いつも無駄に鋭いくせに、
どこまでも無神経で、気まぐれで――
でも、決して“甘くはない”。
(今バレたら……終わる)
後ろを振り返る勇気が出なかった。
けれどその分、視界の先に映ったものが脳に焼きついた。
(……ん?)
細い路地の先。
誰も気づかないような喧騒の外れで、なぜか囲まれているひとりの男。
『……なにしてんの、あの人……』
思わず、口から漏れた。
あれは――ヴィラン連合の……Mr.コンプレス。
(そういえば……いつも後ろのほうに立ってるだけで、“戦ってる”ところは見たことないかも)
個性は……あれ、なんだっけ?
確か、小さな球に“圧縮する”とかそんなやつ。
だとしても――
(……これは……無理でしょ)
囲まれ、逃げ場もなく、誰にも気づかれず、
そしてなぜか、本人はどこか余裕すら残しているような――そんな空気。
『……呑気すぎでしょ……』
小さく吐き出すように言った。
本来なら、ここで私が手を貸す理由なんて何ひとつない。
むしろ、放っておいたほうが都合がいいはず。
でも――
(……放っておけない、よね)
さすがに、あの姿は見てられない。
風を呼び起こす。
騒がしさの中に溶けるように、気配を消す。
静かに。優しく。
けれど迷いのない意志で――
“彼”を、空中へと舞い上がらせた。
(……助けたんじゃないよ。たまたま、風が吹いただけ)
そう言い訳するように、私はそのまま物陰へと足を運んだ。