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【ヒロアカ】re:Hero

第19章 交差する影、歪む真実


荼毘side


風が抜け、視界の隅で“あの女”の姿が消えた。
容姿は違っても――

(……あの動き。……覚えがある。躊躇も、迷いもねぇ)

あれは、炎に「慣れている」者の避け方だ。
それも――炎に焼かれたのではなく、壊されかけたことのある人間だけが持つ、
“無意識の拒絶”に近い回避だった。

その瞬間だった。
氷の弾丸が空を裂き、荼毘の足元で炸裂する。

「どこ見てる、荼毘」
氷の壁の向こうから、外典の声が落ちる。

荼毘は一度だけ目を細めると、静かに応じた。

「……さっきの、風のやつ。」

「……あいつも、異能解放軍の構成員ってわけか?」

外典はわずかに肩をすくめた。

「知らん。末端までいちいち覚えてない。
最近入ったやつも多いしな。見たことねぇ顔もある」

荼毘の瞳が、興味を帯びて揺れる。

「……最近、ね」

青い炎を纏う腕をちらりと眺めながら、笑みを深める。

「へぇ。最近入ったにしちゃ――ずいぶん、炎に慣れてたな」

返事はない。
外典は静かな目で、ただ睨み返す。

沈黙の間に、ひとつの皮肉が落とされた。

「……まあ、いいけどな」
「“かの有名なヴィラン連合の荼毘”が――女に気を取られて、やられたなんて噂が広まったら」
「……面白いと思ってさ」

それは挑発ではなく、揺さぶり。
外典らしい、氷の刃に似た言葉だった。

荼毘は一拍だけ沈黙し――ふっと笑った。

「……クソガキが」

だがその顔に、怒りはなかった。
むしろ、明確な――“愉悦”が滲んでいた。

「いや……ま、たしかに」

「俺の炎を、あそこまで自然に避けた奴なんて、
ちょっと“記憶に残ってる女”くらいだ」

喉の奥で、低く笑いながら呟く。

「……もしあれが“そう”だとしたら――」

「むしろ、テンション上がんだよ」

青い炎が、指先から地へと静かに落ちる。
獣のようにうねる火が、一気に外典を襲う。

「また会えたら……今度は、顔、焼けるまで見せてもらおうか――“嬢ちゃん”によ」
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