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【ヒロアカ】re:Hero

第19章 交差する影、歪む真実



荼毘がゆっくりと歩いてくる。
その足元に、青白い炎がじわじわと広がっていた。

(……まずい)

私は声を低く作り、
喉をしぼるように押し出す。

『……タイミング、見てただけ』

荼毘はほんの一瞬、目を細めた。

「フン……冷めてんな、つまんねぇ」

その言葉と同時に、炎が放たれた。
真っ直ぐに、こちらを焼き払うような火球。

私は瞬時に、手を前に掲げる。

(風――)

願いは、形になる。
空気の流れが指先に集まり、
圧縮された風が弾けるように炎を逸らす。

ただそれだけ。
火と風がぶつかり、空間がうねる。

視界の端で、荼毘がまた笑った。

「防ぐだけか。まるでヒーローみてぇだな」

吐き捨てるような言葉に、少しだけ力がこもる。

それだけで終わればよかった。
けれど、彼は一歩、こちらへ近づいた。

「――なぁ」

その声の質が変わった。

「お前、俺に会うの、初めてじゃねぇよな?」

視線が鋭くなる。
言葉ではなく、“動き”を見てる目だった。

「炎の動き、読みすぎだろ。……まるで、おれの癖、知ってるみてぇにさ」

ゾクッとした。
皮膚が冷たくなる。
“この男”の記憶が、焼けるように蘇る。

(……ダメ、バレる)

背中が張り詰めたまま、私は言葉を選ぶ。

『……さあ、何の話』

できるだけ、乾いた声で。

けれど荼毘は、ほんの一瞬だけ目を細め――
そのままニヤッと、口元を吊り上げた。

「……まあいいか。いずれ分かる」

その言葉を最後に、荼毘がふたたび炎を纏う。
私が反応するよりも先に――

「荼毘……ッ!」

鋭い氷柱が空を裂いて飛来した。

氷を操る個性。
その力に見覚えがある。

外典――異能解放軍の幹部。

空中で、荼毘の青い炎と、外典の氷が激突する。
バチッと火と氷が反発し合い、周囲に蒸気が爆ぜた。

「ちっ、鬱陶しいのが来たな……」

荼毘は舌打ちしながらも、
その視線を一瞬だけ――私に戻した。

青い炎の合間から、じっとこちらを見つめてくる。

目が合った。

その瞬間、
彼は狂気じみた笑みを浮かべた。

「……また後ではなそーぜ?」

まるで遊びの続きを持ちかけるように、
軽く手を振って、氷の方へと身を翻す。

その背中を見ながら、私は息を殺した。

何もかも、張り詰めていた。

逃げ場も、安心も、どこにもなかった。
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