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【ヒロアカ】re:Hero

第19章 交差する影、歪む真実



泥花市に来て、すでに数日が過ぎた。

異能解放軍に勧誘されたとはいえ、
特別な指示や行動があるわけでもなく、
私はいまだに末端の一人として、街の空気にただ溶け込むように存在している。

上層の人間とは一度も顔を合わせていない。
何も進まないまま、日々だけが流れていく。

(……イライラする……)

焦りと苛立ちが、心の奥で膨らんでいく。
長引けば長引くほど、“私”が削られていくようで。
本当の自分が、薄れていくのが怖かった。

(早く終わらせたい……でも、終われない)

そんな時だった。
見覚えのある青年が、路地の向こうから手を振ってくる。

勧誘してきた張本人――
あの軽いノリと、あの笑顔は、今日も変わっていなかった。

「これからさ、あいつらと戦うんだよ。ヴィラン連合だってさ」
「個性、遠慮なく使ってさ。殺してやろうぜ、全部」

楽しげにそう言って、彼は声をあげて笑った。
周囲の解放軍の連中も、それに同調して笑う。

私は小さく笑ってみせて、
口の端だけで「OK」と返す。

でも――

(殺すなんて、できないよ)

その言葉だけは、心の奥で固く拒んでいた。
たとえここにどれだけ長くいて、
偽りの顔で過ごしていても――

それだけは、絶対にしない。

(それをしたら、私はもうヒーローじゃなくなる)

どんなに偽っていても、
誰の命令で動いていても。
心の奥のその一点だけは、絶対に壊させない。

ヒーローでいられる自分を、
ほんの少しでも残しておくために。

遠くの空で、爆発音が響いた。

その音に誰かが歓声を上げる。
けれど私は、ただ静かに目を伏せていた。
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