• テキストサイズ

【ヒロアカ】re:Hero

第19章 交差する影、歪む真実



泥花市――
曇り空に、濁った街並み。
街は静かすぎるほど静かで、何かが起きる前の息をひそめた空気に包まれていた。

駅を出た瞬間、私は小さく息を吐いた。
鏡の中の自分とは、もう違う顔。
容姿を変えただけなのに、何か大切なものを脱いだような気がした。

(……行こう)

足を動かす。
公安からは「個性を使う場面を自分で選べ」とだけ指示されていた。
つまり、どう接触するかは、私の判断に任されている。

歩きながら街を見渡す。
人影はまばらだが、視線を感じる。
この街は、見えない誰かにずっと“監視されているような気配”をまとっていた。

そのときだった。

「おい! そっちは危ないぞ!」

背後から聞こえた叫び。
振り向いた先で、車道に飛び出した子どもがいた。
大型トラックが迫る――間に合わない。

体が反射で動いた。
足が地を蹴る。

(お願い、“届いて”!)

想いが胸の奥から溢れるように広がる。

その瞬間、
空間がきらりと歪んだ。

風の流れが反転し、
子どもの身体がふっと車道から押し出される。

ほんの一瞬の出来事だった。
誰にも気づかれずにやり過ごせると思った――そのとき。

「……今の、あんたの個性か?」

声が落ちてきた。

視線を向けると、そこには一人の青年。
鋭い目つきと、冷静すぎる表情。
その服装――どこか、“あちら側”の匂いがする。

「“想い”で空間が動いた。違うか?」

『……何のことかわかりません』

答えながらも、背筋に冷たい汗が伝う。

男はふっと笑った。

「ま、別に隠さなくてもいい。
こんな街で“あれ”を見せたら、目をつけられるに決まってる。
……うちに、来るか?」

まるで雑談のような口ぶり。
でもその奥にあるのは――明確な“勧誘”。

「個性を“使える”場所、必要だろ?」

私は返事をしなかった。
ただ、俯いたまま、彼の言葉を飲み込んだ。

(これは……任務の第一段階)

だけど。
あの子どもを助けようとした“想い”だけは、
偽りじゃなかった。
/ 664ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp