第19章 交差する影、歪む真実
談話室side
談話室の片隅に、糸が切れたように倒れ込んだ想花を、クラスメイトたちは静かに囲んでいた。
彼女はいつも強かった。
誰よりも冷静で、誰よりも仲間を守る立場で――なのに。
「……まさか、想花が……」
耳郎が、小さな声で零す。
「こんなふうになるなんて……」
葉隠の声も震えていた。
頼っていた背中が揺らいだ、それだけで、教室の空気が少しずつ崩れていく。
焦凍は、彼女の手をそっと握ったまま動かない。
ぎゅっと指を絡めたその手が、今だけは壊れそうなものを抱えるように見えた。
「……想花だって、守られる側…なんだよね」
芦戸の言葉が、誰の胸にも静かに沁みていく。
あの強さは、きっと――
“誰か”が心にいるからこそのものだったんだ。
それはとてもまぶしくて、でも同じくらい、儚いものだった。
少し離れた場所から、相澤先生はじっとその姿を見つめていた。
冷静な眼差しの奥に、痛みがあった。
「……彼女は強い。だからこそ、あの覚悟があった。だが――」
それは、
誰よりも繊細な場所に立っている、ということでもあった。
「……想いが支えてるんだ。彼女のすべてを」
そう呟いた先生の声が、誰の胸にも残る。
クラスの誰もが、心のどこかで思い知らされた。
戦うということは、支えること。
そして――支えられていること。
沈黙の中、それぞれがただ、紗良を見ていた。
今だけは、ヒーローじゃなく。
一人の、大切な友人として。