第19章 交差する影、歪む真実
その空気を壊さないように、でもどこか不思議そうに──耳郎ちゃんがぽつりと口を開いた。
「……でもさ、なんでこの時期に? いきなり復帰って、なんかあったんスか?」
するとマンダレイが「おっ、来た来た〜」と言わんばかりに手をパチンと鳴らした。
「そうそう!いいとこ突くじゃん、耳郎ちゃん!」
「実はね、今月末に“ヒーロービルボードチャートJP・下半期”の発表があるんだけどさ〜」
「わたしたちもそれに合わせて、正式に“復帰”ってことになったの!」
「うわっ、ビルボードチャート!? そういや、そんな時期か……!」
「つーか、マジで復帰ってことはさ……ランキング復活ワンチャンあるってこと!?」
みんなの反応に、虎さんが「いや、おまえら落ち着け」と低い声で制すも──
ピクシーボブは満更でもなさそうに腰に手を当てて、どや顔で言った。
「当然でしょ? あたしたち、現場に戻る以上は――本気で上狙ってるから!」
「ふっか〜つ!って感じだね!」
ラグドールがふわふわ笑いながら、楽しげに手を振る。
洸汰くんはというと、ちょっと離れたところでまだ照れたまま体育座りしていたけれど──
その目は、まっすぐ憧れのヒーローたちを見ていた。
その空気に、壊理ちゃんも自然と目を輝かせていて。
私は思う。
“この空気”が、今の雄英の強さなんだろうなって。
みんなで笑って、支え合って、前を向いて――
どんな困難が来ても、きっと立ち向かえるって、そう思える空気。
(──ビルボードチャート。もうそんな時期なんだ)
と同時に、私はほんの少し、胸の奥がきゅっとなるのを感じた。
『……ホークス、また上位なんだろうな』
そう思っただけで、少し胸があたたかくて、少しだけ、痛かった。