第19章 交差する影、歪む真実
想花side
文化祭の喧騒が夢だったかのように、
日々はまた、静かに、少しずつ流れていく。
毎日めまぐるしくて、ふと気を抜けば時間だけがするりとこぼれていきそうで。
そんなある日の午後。
1-A寮の談話室に、突然ふわりと、空気の動く気配がした。
「ちょっといいか」
その声に、みんなが一斉に顔を上げる。
談話室の入り口に立っていたのは、相澤先生。
そして、その隣にいたのは――
白い髪、赤い瞳。
小さな身体に、少し大きめのコートを羽織った、あの子だった。
「今日から彼女は、正式に雄英で保護することになった。
住むのは教職員の宿舎だが、今後、校内で顔を合わせる機会も増える。
――よろしく頼む」
いつも通り淡々とした口調だけど、
その後ろで、壊理ちゃんは少し緊張したように、でもちゃんと立っていた。
「えっ、ほんとに……!? 壊理ちゃん!」
「わぁ、また会えるんだね!」
真っ先に反応したのは、緑谷くんとお茶子ちゃん。
あの任務に参加していたみんなが、ぱっと表情を明るくして彼女に歩み寄る。
壊理ちゃんの目がきょろきょろと、談話室の中を見渡す。
そして――私を見つけたその瞬間、顔がぱっとはじけるように笑った。
「おねえちゃん!」
その言葉と同時に、彼女は駆け寄ってくる。
まっすぐ、迷いもなく、私の胸に飛び込んできた。
『……壊理ちゃん』
私はそれだけを呟いて、
小さな身体をそっと、でもしっかりと抱きしめた。
そのぬくもりが、胸の奥にまで染みわたるようで。
少し前の、あの暗くて冷たい地下の記憶さえ、遠くに溶けていく。
銀と白、ふたつの色が寄り添うように揺れて、
まるで、昔から一緒にいたみたいに自然だった。
「……え、あのふたりって知り合いだったっけ?」
「ていうか、星野ってあの時いた? 壊理ちゃんと関わってた……?」
そんな声が、少し後ろで囁かれていたのを、私は聞かなかったふりをした。
壊理ちゃんが、私を“おねえちゃん”って呼んでくれた。
そのたったひとことで、すべてが報われた気がしたから。
そして、私の腕の中で壊理ちゃんが、
小さく、でもはっきりとつぶやいた。
『……また、会えてよかった』
私はただ、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
この子が、もう泣かなくてすむ場所に来られたことが――
何より嬉しかったから。
