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【ヒロアカ】re:Hero

第18章 きみの隣、それがすべて



街の喧騒から切り離されたような場所に、
青白い月明かりだけが静かに降り注いでいた。

人気はなく、風もない。
なのに、肌がじわじわと焼けるような熱だけが、遠くから近づいてくる。

 

「……来たな、鳥さん」

ほとんど空気のような気配で、そこに現れたのは――荼毘。

その顔には、相変わらずの皮肉な笑み。

「文化祭、おつかれさん。
 すっごいなー、ミスコンでNo.2が彼女の手ェ引いて登場とか。
 びっくりしちゃったよ、こっちは」

 

その言葉に、心が一瞬だけざらついた。

俺は表情を崩さず、低く問い返す。

 

「……どこで見とった?」

「さあ?偶然通りかかったとか、テレビとか、空の上からとか……」

はぐらかすように笑って、荼毘は一歩、距離を詰めてくる。

「おまえさ、信じてるんだろ。
 “こっち”の人間として、うまくやってけるって」

「……」

「でもな、ホークス。
 ヒーローやってる時のお前の顔、あれ、ちょっとずつ戻ってきてんぞ」

 

その言葉には、明確な悪意も、怒りもない。
ただ“見抜かれている”という重さだけがあった。

 

俺の中に残ってる“何か”に、
こいつは気づいてる。

けど、それでもまだ試すだけ。
俺を壊すには、まだ何かが足りないと――そう思ってる。

 

「で、今日の話はそれだけか?」

「うん、まあ」

荼毘は肩をすくめる。

「……でも近いうち、“遊び”に行くわ。おまえんとこに」

 

その言葉に、空気が変わった。

「“脳無”も連れてな。
 ちゃんと、歓迎の準備しといてくれよ?
 あのNo.1ヒーローも一緒に、な?」

 

背筋に冷たいものが走る。
でも俺は、それを表に出さない。

沈黙のまま、視線だけで返すと――

 

「……じゃ、また」

まるで約束を交わした旧友のように、
荼毘は気軽に手を上げて、闇へと溶けていった。

 

炎の匂いだけを残して。

 

俺はその場にしばらく立ち尽くしてた。

ポケットの中、彼女から託された小さな結晶が、手のひらの中で静かに光ってる。


(……間に合うか、俺)


そう呟きながら、俺は深く息を吐いて、
何事もなかったかのように、静かにその場を去った。

明日も、ヒーローをやるために。
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