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【ヒロアカ】re:Hero

第18章 きみの隣、それがすべて


想花side

星が瞬く夜空の下、
寮の屋根に並んで座っているのは、たぶん私たちだけだった。

文化祭が終わって、校舎の中も静まり返っていて。
遠くから聞こえるのは、片付けの足音と、風の音だけ。

啓悟は、いつものように隣にいた。
冗談を言って笑って、私の髪にそっと触れて。
それなのに、どこか――

(……なんだろう)

ほんの、ほんの少しだけ。
“何か”が違う気がした。

笑ってるのに、心がここにないような。
そんな気配が、彼の横顔に滲んでいた。

 

でも、私はそれを聞けなかった。
聞いてしまえば、彼はまた“いつもの顔”に戻ってしまいそうで。

だから、言葉の代わりに――
私はそっと、彼の胸に手を伸ばして。

 

ぎゅっと、抱きしめた。

 

突然のことで、啓悟の体が少しだけ固まる。

「……どした? また甘えとーと?」

いつもの飄々とした声。
笑ってる、でも――すこしだけ、戸惑いも混じってるような。

私は顔を上げずに、ただ言った。

『……んーん、ただ、抱きしめたくなっただけ』

「……なんそれ」

苦笑まじりの声とともに、彼の腕が私の背に回る。

「……もう、ほんとずるかって。そーいうの」

抱きしめ返された体が、少しだけ震えた気がした。
でもそれは、きっと風のせいじゃない。

 

『……ずるいのは、啓悟のほうだよ』

私の声も、少しだけ震えた。

『なにかあるのに、何も言ってくれない。
 でも、笑ってるふりだけは上手くて……ずるい』

啓悟はなにも言わず、
それでも腕の力だけが、少し強くなった。

まるで――
本当は、気づいてくれてることが嬉しいみたいに。

 

彼が、なにを抱えていても。
なにをしていても。

私は、ここにいるよ。
それを、どうしても伝えたかった。

 

言葉じゃなくて、
想いで、伝えたかったから。
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