第18章 きみの隣、それがすべて
屋外ステージ袖。
午後の日差しが、照明と入り混じって眩しい光を作る中――
ミスコン開幕のアナウンスが、観客席からの歓声とともに響き渡っていた。
華やかな音楽。緊張した出場者たち。
タキシードに身を包んだ男子たちが、それぞれのパートナーを静かに見守っている。
私の隣には――
無言で立つ、スーツを着た焦凍の姿があった。
『……ねぇ、ほんとにいいの?』
少し緊張しながら問いかけると、彼はわずかにこちらを振り返る。
「別に。俺は大丈夫だ」
その声は、いつものように淡々としていたけれど。
その瞳には、どこかあたたかさがにじんでいた。
「次、1年A組、星野 想花さんの入場です!」
スタッフの声が飛ぶ。
遠くの観客席がざわめき、司会のマイク越しのアナウンスが響く中――
私は大きく息を吸って、一歩を踏み出そうとした。
その瞬間。
焦凍が、ふと立ち止まった。
そして私の背後に向けて、淡々と――でもどこか確信を持った声で、呟く。
「……来たな。変わるぞ」
『――え?』
振り返った先にいたのは――
黒に近いダークネイビーのスーツ。
白いシャツと、緩く結ばれた細いリボンタイ。
きっちりとした装いなのに、どこか抜け感のある、着慣れた空気を纏っていて。
そしてなにより――
背中には、圧倒的な存在感で広がる、真紅の翼。
日差しを受けて、煌めくように揺れるその羽根を背負って、
啓悟が、そこに立っていた。
焦凍と入れ替わるように近づいてくる彼は、
周囲の誰の視線も気にすることなく、当たり前のように私の隣へと立つ。
「……まにあったー。危ない危ない」
ぼそりと、いたずらっぽく呟く声。
だけど、その手はまっすぐで、私の手を探すように差し伸べられた。
『え……なんで啓悟が――』
「後で聞く。今は、行こ?」
照れ隠しなんかじゃない。
ただ、まっすぐに。
そう言って差し出されたその手に、
私も気づけば、そっと自分の手を重ねていた。
そして――
ふたり、幕の手前で立ち止まる。
向こうにはステージ、歓声。
照明の眩しさと、無数の視線。
『……ほんとに、行くの?』
「うん。堂々と、ね」
彼は笑った。
まるで、誇らしげに。
――そして、二人の影が、ステージに向かってゆっくりと動き出す。