第18章 きみの隣、それがすべて
文化祭前日。
廊下には、装飾の紙吹雪が舞い、どの教室からも笑い声と準備のざわめきが漏れていた。
私は呼ばれて、再びミスコンメンバーの控え室へと向かっていた。
焦凍も、何も言わずについてきてくれる。
部屋に入ると、相変わらず華やかな空気。
拳藤ちゃんに回原くん、それに見目麗しい先輩たちが揃っていて、まるで舞踏会の準備みたい。
「想花ちゃん、ドレスのサイズは前のままで大丈夫そう?」
「メイクとヘアは明日朝イチでやるからね〜!」
「当日は一人ずつ順番にステージ裏に呼ぶから、それまでは控え室で待機ね!」
あれよあれよと確認事項が飛んでくる。
私はそのひとつひとつに頷きながら、ふと焦凍を見る。
……隣で、真顔のまま資料を渡されていた。
「焦凍くんにはね、当日のエスコートをお願いするから〜!」
拳藤ちゃんがにこっと言う。
『エスコート……?』
焦凍と、同時に口に出していた。
「……え、エスコートって……?」
「えっ……?まさか、気づいてなかったの?」
拳藤ちゃんの目が丸くなる。
「男子1人って、エスコート役でしょ〜?」
ねじれ先輩が、無邪気に笑った。
「ドレスに合わせて、タキシードもちゃんと用意してるよ!」
「……あれ、もしかして……」
回原くんが思わず吹き出しそうになってる。
私と焦凍は顔を見合わせた。
その視線に込められていたのは――
(……え、聞いてない)
(……俺も)
『……こ、こういうのって……』
「……全然知らなかった……」
焦凍が、困惑を隠さずぽつりと呟く。
『ま、まあ……が、頑張ろうね……?』
思わずぎこちなく笑いかけた私に、
「あ、あぁ…任せてくれ」
焦凍は、いつもの冷静さで短く返してくれた。
でもその耳が、ほんのり赤いのを、私は見逃さなかった。
……前日になって知るサプライズ。
ちょっとだけ、胸の鼓動が速くなる。
いよいよ明日は、文化祭本番。
笑顔で、ちゃんと“終わり”を迎えられるように。