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【ヒロアカ】re:Hero

第18章 きみの隣、それがすべて



「……ありがとう、星野さん」

その一言に、私は小さく瞬いた。

『…………え?』

予想していたものとは、まるで違っていた。

責められると思っていた。問い詰められると思っていた。

だけど。

「……あの日、君があそこにいたから……
ナイトアイも、僕も死なずにすんだんだ」

 

まっすぐな瞳が、ひるむことなくこちらを見つめてくる。

純粋で、ただ真実だけを見ている目。

『……』

 

私の中に溜まっていたものが、少しずつ溶けていく。

あの日々のこと、
任務だと分かっていても胸が痛かったこと、
誰かを助けるために選んだのに、自分が汚れていく気がして怖かったこと。

全部、彼のその言葉が救ってくれた気がした。

「……ほんとうに、ありがとう」


その言葉は、私の中の“正しさ”を肯定してくれた。

揺れていた心の奥に、温かな灯がともるようだった。


『……何も、聞かないの……?』

私がそう言うと、緑谷くんはふっと笑った。

「……? 聞く必要は無いよ。
だって“助けてくれた”……その結果が全てだから」


静かな、でも確かな肯定。

涙が零れた。

耐えてきた日々が、頑張ってきた全部が、
その一言でようやく報われた気がして。


『……っ、あ、ありがと……っ』

震える声と一緒に、涙が一筋、頬を伝って落ちていく。

何日も何週間も、張り詰めていたものがほどけて、もう止められなかった。

そんな私の前に、そっと差し出されたのは――

真っ白なハンカチ。

 

「……はい。あの、使って……」

声も、手のひらも、すごく優しかった。

顔をあげるのが恥ずかしくて、でもその気持ちが嬉しくて。

私はそっと、そのハンカチを受け取った。

『……ありがと、緑谷くん』

 

しばらくの間、ふたりの間には何も言葉がなかったけど、

その沈黙が、なぜだかとても心地よく感じた。

まるで、全部を包み込んでくれているような、静かな時間。

 

そして私は、涙を拭きながら、

ようやく、ほんとうに“日常”に帰ってきたんだって、そう思えた。

──きっと、もう大丈夫。

そう思える、はじめての日だった。
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