第18章 きみの隣、それがすべて
『……なにそれ、何の話?』
笑ったつもりだった。
軽く受け流して、すっと誤魔化すつもりだった。
けど。
……緑谷くんの目を見た瞬間、全部無駄だって分かった。
まっすぐすぎるその眼差しは、何もかも見透かしてくる。
たぶん、最初から答えなんて求めてなかった。
もう――気づいてた。
『……はぁ、やっぱりごまかせないか』
小さく息を吐いて、私は屋上の柵にもたれた。
『……だって、緑谷くんだもんね。』
『私の“個性”のこと、一番研究ノートに書いてるの……緑谷くんでしょ?』
いつだったか、こっそり見せてくれたページを思い出す。
「発動条件は意志と感情」
「本人の精神状態によって、能力値が大きく上下する」
「相互干渉系の変則型――“想願”」
自分のことを、私以上に理解しようとしてくれた人。
だからこそ、バレるのも早かったのかもしれない。
『……あの日、誰にも気づかれないようにしてたつもりだったんだけどな』
『緑谷くんの前じゃ、無理だったか』
言葉にしてしまったあと、胸の奥が少しだけ、軽くなった気がした。
でも同時に――ほんの少しだけ、怖くもあった。
だって、私の“全部”を知った彼が、これから何を言うのか。
それによって、この平穏が壊れる気がして。
(……怖いよ)
ほんの少し、彼の言葉を待つのが。