第18章 きみの隣、それがすべて
ホークスside
通話が切れたスマホを胸元に当てて、しばらく目を閉じた。
彼女の声が、まだ耳に残ってる。
言葉の端々に滲むあたたかさ。
それを聞けただけで、身体の奥がゆるんでいく。
ずっと張り詰めてた糸が、ふっと解けた気がした。
──見たよ、あの写真。
なんでもないふうを装ってスマホ開いて、
たまたま流れてきた“例の掲示板”にあのドレス姿が貼られてて。
……心臓、止まるかと思った。
銀の髪。
海みたいなドレスに包まれて、笑ってる彼女。
あんなの見せられて、平気でいられるわけない。
(……綺麗すぎんだろ、想花)
思わず息を吐いて、後頭部を壁に預けた。
視界の先に彼女の姿が浮かんでくる。
目を細めて笑う顔。
ほんの少し恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに、頬を染めてたあの表情。
「……つーかさ」
ぽつりと声が漏れる。
「もう、隠すのやめたほうがいいかもな」
だって、あんなの――
惚れ直さねぇ男なんて、いねぇだろ。
変な虫が群がってくるのなんて、目に見えてる。
俺以外の誰かに見られるのも、話しかけられるのも、名前を呼ばれるのも、
全部――
「俺が、先に全部もらったのに」
誰より先に、心ごと惚れたのに。
俺だけが知ってた、彼女の素顔。
その場所に、他の誰かが踏み込んでくるのが――怖いんだ。
(……おまえの隣、ずっと俺でいたいのに)
独り占めしたいわけじゃない。
だけど、どうしようもなく、君を守りたい。
誰にも触れさせたくないほどに、大切なんだ。
「……ほんっと、好きすぎるんだけど」
冗談みたいに言って、でも、笑えなかった。
だって本気だから。
恋とか、独占欲とか、そういうの全部超えて――
俺の“居場所”は、あの子だけになってた。
「……なあ、想花」
スマホの画面に、彼女の名前がまだ残ってる。
その下に、ふわりと指を滑らせて。
「文化祭、ちゃんと見に行くよ」
“見に行く”じゃないか。
“会いに行く”んだ。
誰が見てても関係ねぇ。
……だってあの子は、“俺のヒーロー”なんだから。