第18章 きみの隣、それがすべて
『……えっ、写真?』
「うんっ!展示用に1枚だけ!思い出ってことでさ!」
拳藤ちゃんがにこにことカメラを構える。
その横でねじれ先輩が、「この角度〜!この光〜!!」って大騒ぎ。
『ちょ、ちょっと待って!まだ心の準備が――』
「いいっていいって〜!いっくよ〜〜♡」
カシャッ!
一瞬、フラッシュが弾けた。
姿勢を整える暇もないまま、反射的に笑ったその瞬間。
青と銀の光に包まれた自分が、ファインダー越しに切り取られていた。
「やっっっば……これ……」
拳藤ちゃんがスマホの画面をのぞきこんで、ぽつりと呟く。
「……普通に、優勝なんじゃない?」
「想花さん、ほんとに……綺麗だよ」
静かな声でそう言ったのは、回原くんだった。
その声に驚いて振り返ると、彼は少しだけ視線を逸らしていた。
そして、隣で焦凍がふと呟く。
「……似合ってる。すごく」
その何気ない一言が、胸の奥にふわっと灯をともす。
顔が熱くなりそうで、でもなぜか――嬉しかった。
けれどその時。
ふと、頭の片隅に浮かんでしまったのは――
(……啓悟、見たら、なんて言うかな)
きっとまた、あの飄々とした笑顔で、
『うわ、惚れ直しちゃったかも〜』
なんて、からかってくるに決まってる。
でも。
(……ぜったい、見せてやるんだから)
胸の奥で小さく、そう誓う。
この瞬間の自分を、彼に見てほしいと思った。
***
だが数時間後。
その「記念の一枚」は、展示スペースどころか――
生徒会広報部の手によって、全校用の掲示板に貼り出され、
さらに、生徒限定アプリの文化祭特設ページで**【ミスコン優勝候補 No.1】として大々的に拡散**されることになる。
「やばくない?」「銀髪美少女……え、実在??」
「ってかA組の想花だろコレ!!!!」
「まって、ガチ惚れした……」
ざわつく学内。
掲示板の前では、男子たちが謎の敗北感と尊死の波に呑まれ、
──そして、その写真をじっと見つめていたひとりの少年が、静かに言った。
「……あいつ、ちゃんと笑ってる」
青と銀のドレスの中で、どこか誇らしげに微笑む彼女の姿。
その背後に、彼女が“想っている誰か”の影を見た気がして。
勝己は黙って、掲示板から目をそらした。