第18章 きみの隣、それがすべて
『え、えっ……ちょっと、ほんとにやるのこれ……?』
戸惑う私の言葉なんて、誰の耳にも届いていなかった。
「オッケー! ベースメイク完了〜!」
「じゃあ私はヘア! この子の髪、すっごい綺麗だね〜!」
「アイシャドウはブルー系で統一だね!透明感優勝♡」
拳藤ちゃんに、ねじれ先輩に、そして集まった3年のミスコン常連メンバーたち。
次から次へと施される、手慣れたメイクとスタイリングに、
私はあっという間に“布と布の間の存在”になった。
「このシルバーの髪……絶対ブルーのグラデドレスが似合うよね〜!」
「うん、しかもこれ!マーメイドラインのこのドレス!まさに主役級〜!」
鏡の向こうで見知らぬ私が、次々と生まれていく。
まるで、舞台のヒロインに仕立てられるような不思議な感覚。
(……ほんとに、出るんだ、私……)
そして――
「はい、じゃあ、これ着てみて!」
拳藤ちゃんが差し出したのは、
夜空を思わせるブルーから、海のように透明なアクアブルーへと流れるグラデーションのドレス。
ウエストラインからすらりと伸びたマーメイドの曲線が、
ただの“高校生”を、すこしだけ大人に見せる。
着替えを終えて、ドアの前に立つと。
「じゃあ、登場……いってみよっか!」
拳藤ちゃんがにこっと笑って、私の背中を押した。
『ちょ、ちょっと……!』
バタン、と扉が開く。
その瞬間。
控室にいたみんなの動きが、一瞬だけ止まった。
空気が、静かになる。
その視線のすべてが、私ひとりに注がれている。
「……は、やば……」
「マジで……姫……?」
目の前の回原くんでさえ、少しだけ目を見開いてから、
落ち着いた声でこう言った。
「……優勝、決まりだな」
『えっ、な、何その空気!?』
恥ずかしさに思わず身を縮めるけど、
ドレスのラインがそれを許さない。
銀髪に合わせた、ブルーのアイメイク。
繊細なグリッターが瞳の奥を輝かせて、
鏡の中の“私”は、確かに今まで見たことない顔をしていた。
「想花ちゃん……やばいよ。 あんた、超・キレイ……!」
拳藤ちゃんが、ぽかんとした顔で見つめてきて、
ねじれ先輩は感動のあまり、ぐっと拳を握っていた。
「これはもう、恋の予感しかない!」
『…いやいや』
それがどこか、くすぐったくて。
ちょっとだけ、誇らしかった。
