第18章 きみの隣、それがすべて
「ワン、ツー、スリー、フォーッ!!」
明るく響く掛け声と、アップテンポな音楽。
1-A教室は、机も椅子もきれいに片付けられて、今や完全なる“ダンス練習空間”!
三奈ちゃんのキレッキレな指導のもと、ステップを刻むみんなの足音が、教室の中に軽快なリズムを作っていく。
鏡代わりの窓に映る自分。
額から汗がつたうたび、息を整えるたび、自然と笑みがこぼれた。
(……楽しいな)
練習は大変だけど、心の中がなんだかあったかい。
文化祭まで、あともうすこし。
そんなとき――
「想花ちゃーん、ちょっといい〜?」
バンッと開いたドアの向こう。
顔をひょこっとのぞかせたのは、3年の波動ねじれ先輩だった。
『ねじれ先輩? 何かありました?』
「んふふ〜、ちょっと呼び出しなんだよねぇ〜♪ 天喰くんも一緒に!」
後ろに控えていた天喰先輩が、目を逸らしながらもおずおずと手を挙げた。
『え……あ、分かりました』
戸惑いながらも頷いたそのとき――
「あと、男の子ひとり、着いてきてーっ!」
ねじれ先輩の呼びかけに、
「はいッ!!!」
「いっきまーーすッ!!」
上鳴くんと峰田くんが、ほぼ同時にビシィッと手を挙げた……けど。
「俺が行く」
教室の後方から、ひんやりとした声。
焦凍がすっと前に出て、2人のあいだをスライドするように通り抜ける。
「……っ!!」
「は!? ずるくない!?」
上鳴くんと峰田くんがそろってずっこけたその直後――
「なんで半分野郎なんだよ!!!」
バンッと机を鳴らして立ち上がる勝己。
『もー勝己、怒んないのっ!
ほら、切島くんの元に戻って……ハウス!』
「誰が犬だコラァ!!くそがァ!!!」
肩をぶんと揺らして舌打ちしながらも、しぶしぶ切島くんのところへ戻っていく勝己。
私はその背中を横目に、ねじれ先輩のあとをついて教室を出る。
そのすぐ隣に、焦凍の無言の気配が寄り添っていた。
(……なんだろう)
足音だけが響く廊下。
心臓が少しずつ、早くなる。
何も知らずに向かうその先――
その扉の向こうに、“事件”の香りがしているなんて。
まだ、気づいていなかった。