第17章 死穢と光の狭間で
ホークスside
静かな夜だった。
寮の屋根の上、夜風に髪が揺れるたび、隣で小さくすする彼女の呼吸が伝わってくる。
おれの羽根で包んだこの温度が、何よりも愛しくて、怖かった。
この手から、もう二度と離れてほしくないって思った。
……でも、それを言葉にしたら、なんだか本当に離れていく気がして。
だから、代わりに言う。
「なぁ……」
少しだけ間を空けて、彼女が顔を上げる。
「時間、できるたびに──こうやって、会いに来るから」
不器用にしか伝えられない“好き”を、誓いの代わりに。
潜入なんてクソみたいな任務の中でも、
何があっても、どんな距離になっても、
おれは必ず、お前のもとに戻ってくる。
そういう意味を込めて、まっすぐに伝えた。
彼女は一瞬だけ目を丸くしたあと、
ふわっと花が咲くみたいに笑った。
『──じゃあ、待ってる。何度でも。』
その笑顔だけで、たぶん何度でも戦えるって思った。
『……約束ね、啓悟』
「──ああ」
おれは頷いて、彼女の髪に指を滑らせる。
月の光が、彼女の瞳を透かす。
笑ってるのに、少し潤んで見えるのは……おれの目のせいだろうか。
「想花」
名前を呼んだだけで、胸が詰まる。
こんな風に隣にいられる時間が、
あとどれくらい残っているのか──
怖いことばっか、考える。
でも今は、ただ。
この手を離さないまま、時間よ止まれって思った。
この夜が、明けなきゃいいのにって。
──でもそれでも、明日は来る。
だからせめて、今日を忘れないように。
彼女の小さな手を、強く握り返した。