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【ヒロアカ】re:Hero

第17章 死穢と光の狭間で



あの日の夜と同じ、寮の屋根の上。
冷たい夜風が頬を撫でるけど、
啓悟の翼が私を優しく包み込み、その温もりが全てを溶かしていく。

彼の肩にそっと寄りかかりながら、ずっと待ち望んでいたこの瞬間を噛みしめる。

「……想花……?」

その声が震えていて、でも確かにそこにあることが嬉しくて涙が溢れる。

「……泣くなよ」

啓悟の言葉に、はじめて頬を伝う涙の存在に気づく。

『…あ、れ…なんでだろ……
あなたに会えて嬉しいせいかな……っ』

声は震えてるけど、胸の中は優しさで満たされていた。

二人だけの静かな夜。
何も言わずとも、心は通じ合っている。


「……一人にして、ごめんな」

ぽつりと落ちた彼の声は、ひどく小さくて、震えていた。
でもその言葉の意味は、私には――正直、よく分からなかった。

(どうして、謝るの……?)

ずっと会えなかった理由。
どうしてあのとき、彼のもとでインターンができなかったのか。
私には、何も知らされていない。

でも。
でもそれでも――

『……一人じゃなかったよ』

私は、ゆっくりと首を振った。
コートの内ポケットに手を入れて、小さなチェーンを取り出す。

『だってね、これがあったから』

右手の薬指にはめられた、あの夜もらった小さな指輪。
そしてその下で揺れる、彼の羽根がついたペンダント。

『あなたがくれたもの。……ずっと、ずっと大事にしてたの』

啓悟の目が、わずかに揺れた。

触れそうで触れない距離で、そっと視線が落ちる。
そのまなざしは、指輪を見つめたまま、何かを噛みしめていた。

『……これがあったから、信じていられたよ。
 あなたにまた会えるって、ちゃんと“信じてた”から』

何も知らされていなくても。
どれだけ不安な夜を過ごしても。

ずっと、心の中に彼がいた。

「……想花」

たった一言。名前を呼ぶだけの声なのに、
あたたかくて、切なくて――胸の奥に、やさしく染みてくる。

「……俺も、ずっと、信じてた」
「何があっても、また……お前に会えるって」

彼の翼がふわりと風を巻いた。
肩を寄せ合う私たちを、まるでそっと抱きしめるように包み込む。

言葉よりも、そのぬくもりがすべてを教えてくれる。

やっと、ここに戻ってこられた。
やっと、彼に――触れられた。
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