第17章 死穢と光の狭間で
靴の音が、アスファルトに小さく響いた。
長い階段を登って、ようやく辿り着いた先。
目の前にそびえるのは――
懐かしい、雄英高校の門。
(……帰ってきた)
制服の襟を指先で整える。
深呼吸を一度。
“何も知らないふり”をして、この場所に戻る。
それは簡単なようで、想像よりずっと、息が詰まることだった。
でも。
それでも、私はここを選んだ。
自分で、戻るって決めたんだ。
門に手をかけようとした、そのとき――
「よぉ」
声がした。
ふと、横を向くと。
そこに立っていたのは、風になびく赤い羽。
無造作な髪。
涼しげな目元。
だけど、口元には確かに――
あの日と同じ、やさしい笑みが浮かんでいた。
『……啓悟……?』
「悪ぃ、待たせちまった?」
彼は、いつも通りに笑った。
『……ほんとに、来たんだ……』
小さく、でも確かに震えた声でそう呟くと、
彼はゆっくり歩み寄ってきた。
そして。
「“今すぐ会いたい”って言っただろ?」
そう言って、
そっと彼の手が、私の頭にのった。
あたたかかった。
遠くにいたはずの人が、
いま、目の前にいる。
それだけで、涙が溢れそうになった。
でも今は、泣きたくなかった。
笑顔で、ここに立っていたかった。
『……ただいま』
やっと、言えた。
彼はその言葉に、少し目を細めて――
「おかえり」
と、ただ一言、そう返してくれた。