第17章 死穢と光の狭間で
スマホの画面に、彼女の名前が浮かんだ瞬間、心臓が跳ねた。
指先が震えて、呼吸が浅くなる。
この小さな光が、何日も何週間も押し込めていた想いを一気に溢れさせそうで、胸が締めつけられた。
「……やっと、繋がるんだ」
呟くようにそう言うと、画面をタップした。
でも、すぐには声は届かない。
ただ、画面の向こうに確かに彼女がいる。
その事実だけで、何もかもが静かに、溶けていった。
あの冷たい公安の部屋。
重くて孤独な日々。
誰にも見せられなかった弱さ。
そんなもの全部が、遠い記憶の彼方に霞んでいく。
『――もしもし、啓悟……?』
小さく震える声。
その一言で、俺の世界はまた音を立てて動き出した。
その声は変わらず、僕の名前を呼んでくれた。
それだけで、救われるようだった。
『ごめん、連絡が遅くなってしまって……』
気まずそうに、彼女は謝った。
でもそんな言葉はいらない。
もう、何度も待っていたんだから。
俺はただ、声が聞こえたことに、涙がこぼれそうになった。
「……想花」
ようやく紡いだ言葉。
でも伝えたい想いは溢れすぎて言葉にならない。
それでも、次に俺の口から零れたのは、ただ一言だった。
「……今すぐ、会いたい」
画面越しの彼女の姿が、すごく愛しくて、守りたくて、たまらなかった。