第17章 死穢と光の狭間で
ホークスside
風が冷たい。
いつもなら心地いいはずのこの場所も、今日はどうにも落ち着かない。
俺は高台にある電波塔の上、夜の街を見下ろしながら、ポケットの中のスマホを指で弄んでいた。
……もう、何度目だろう。
ディスプレイには変わらず、通知のひとつもない。
(連絡、来ねぇな)
無理もない。
彼女が今、どんな場所にいるか……俺にはもう、だいたい見当がついてる。
公安に利用されてることも、ヴィラン連合と接触してる可能性も。
全部知ってる。
知らされたくもないのに、勝手に情報は入ってくる。
そして──
「お前のお姫様、元気か?」
ふざけた調子で、荼毘から送られてきたメッセージが、脳裏にこびりついて離れなかった。
……最悪なセンスだな。
だが、“あいつ”があいつなりに気にしてるってことも分かった。
奴らの中にいた彼女が、生きている。
それだけで、俺の心臓はどうにか持ち堪えてる。
(あいつは……分かっててやってんだろうな)
自分が“囮”になってることも、公安に監視されてることも。
俺の安全と引き換えに、全部飲み込んでるんだ。
本当に、おかしいだろ。
あいつはまだ、ヒーロー科の一年生だってのに──
俺のために、自分を差し出してる。
(バカかよ……)
それでも。
その“バカみたいな強さ”を、俺は何より信じてる。
だから俺も言わない。
「全部知ってた」なんて、口が裂けても言えない。
あいつに守られてるなんて思いたくねぇし。
……でも、守られてるのは俺のほうなんだ。
そう分かってるのが、少しだけ悔しい。
スマホの画面を、もう一度だけ見つめる。
そこには、ただひとつ――
画面には、数週間前の「発信履歴」がただひとつ。
彼女の名前の横に、そっと
「応答なし」
の文字が滲んでいた。