第17章 死穢と光の狭間で
病室は静かだった。
サー・ナイトアイはベッドにもたれかかるようにして座っていて、
その顔はまだ少し青白かったけれど、目はしっかりと力を帯びていた。
「…………きたか」
穏やかな声。
けれど、その左肩には包帯が巻かれ、そこにあるはずの腕は、もうなかった。
それでも彼は、凛とした姿だった。
「……無事で、本当によかったです……!」
僕は、頭を下げた。
もう何度も伝えた言葉だけど、伝えたくて仕方なかった。
彼は少しだけ口角を上げて、ぽつりと呟く。
「私は……本来なら、あそこで死ぬはずだった」
その言葉に、心臓がひとつ、跳ねた。
「見たんですか……未来を……」
「見たよ。はっきりとね。
君が治崎廻に敗北する未来と、私が命を落とす未来……」
それでも、どちらも“起きなかった”。
「……それを変えたのは、たったひとりの少女だった。
正直、私にも理解が追いついていない。
なぜ、あんな奇跡が可能だったのか……」
ナイトアイの瞳が、何かを探すように虚空を見つめる。
「個性の力……それだけじゃ説明がつかない。
彼女には“何か”がある。人の運命すら捻じ曲げるような、異質な力が」
“異質”という言葉に、僕の脳裏にふっと浮かぶ顔があった。
銀色の髪。
優しく笑う目。
いつも、どこか強くて、眩しくて。
みんなの輪の中心にいるのに、
時々、すごく遠くにいるように見えた。
(……星野さん)
ヒーローインターンの時期に入ってから、彼女は一切連絡が取れなくなった。
仮免を一緒に取った仲間たちと、どこか違う場所へ行ってしまったような感覚。
あの時の“彼女”と、壊理ちゃんを抱いて僕を託してくれた“彼女”が、重なって見えた。
――あれは、星野さんだったんじゃないか?