第17章 死穢と光の狭間で
緑谷出久side
――全部、終わったんだ。
でも、まだ僕の中には何かが引っかかっていた。
胸の奥がざわついて、落ち着かなくて。
誰かが、そこに“いた”気がして。
誰かが、誰かのために、命を懸けていた気がして。
(……あの時の、あの女の子)
崩れた死穢八斎會の地下通路を歩きながら、僕は彼女の姿を探していた。
長い黒髪に、戦い慣れた足取り。
壊理ちゃんを守って、僕を信じてくれた“あの子”。
でも、あの場にいたどのヒーローにも記録はなかった。
「どこに……行ったんだろ……」
ふらつきそうな足を引きずりながら、それでも歩き続けた。
そして――
「あっ……!」
一段低い崩落跡の向こう。
担架の上に、サー・ナイトアイがいた。
その隣には、ミリオ先輩も座っている。
両者ともに無事……いや、無事じゃない。
ナイトアイの左腕は――ない。
腹部には処置のあとがあり、包帯が幾重にも巻かれていた。
でも……
“あの瞬間”の致命傷を、どう見ても生き延びている。
(こんな……そんなこと、あるはずが……)
僕は足を止め、言葉をなくした。
ミリオ先輩の足元にも、血の滲んだ包帯。
でも彼は穏やかに笑っている。
あの時、壊理ちゃんを抱えて戦っていた彼が。
(この傷……でも、生きてる)
(あれだけの重傷だったのに……)
(誰かが……癒やした?)
“彼女”がよぎる。
あの子の、震える手と、強い目。
傷だらけになっても誰かを助けようとしてた――あの目。
(まさか……でも……!)
僕は知らない。
彼女の名前も、所属も、正体も。
でも――
あの場所で、一人だけ
“ヒーロー”だった人がいた。
彼女だけが、壊理ちゃんを守り抜いた。
彼女だけが、ナイトアイを癒やした。
彼女だけが、最後まで名乗らなかった。
「……また、会えるかな」
小さく、そう呟いた。
いつか名前を聞ける日が来るなら、
今度こそ――“ありがとう”を伝えたい。
彼女が、あの時の“想い”を貫いたように。
僕も、“守りたいもの”を信じ続けて、進まなきゃ。
この胸の中に残ったざわつきは、
きっとまた“出会う”ための、予兆だ。
――必ず、もう一度。