第17章 死穢と光の狭間で
その一瞬――
「そこまでだッ!!」
上空から響いた爆音。
振り返ると、複数のプロヒーローがアジト外周に降下してくる。
「ヴィラン連合……!? なんでこんなとこに……!?」
「待て、あれ誰だ!? あの女の子、さっき……!」
視線が私に向く。
(……まずい)
『チッ……面倒くせぇな』
荼毘が炎を爆ぜさせ、煙幕を張るように視界を潰す。
「撤退だ。おまえら」
「え〜!? も〜ちょい遊びたかったのに〜!」
「遊びじゃねぇんだよ、トガちゃん」
トゥワイスがコンプレスを引っ張り、笑うトガを連れて後退していく。
そして――
荼毘が、ただ一人、振り返って私を見た。
その瞳に映るのは、狂気でも軽蔑でもなかった。
ただ――
何かに縛られるような、熱を帯びた執着。
「……また近いうちに、会いに行くぜ。ヒーロー」
青い炎が吹き上がり、彼らの姿は白煙の中に消えていく。
あとには何も残らず、ただ熱気と、焼け焦げた空気だけが漂っていた。
『……っ、はぁ……っ』
大きく呼吸をついた瞬間、
周囲のヒーローたちの視線が私に集中しているのを感じた。
「おい、今のって……!」
「あの子、ヴィランと戦ってた……!?」
「……でも、見たことない顔だぞ……?」
(……今は、顔を知られちゃいけない)
『……ごめんなさいっ!!』
振り返りざま、私は地を蹴った。
ヒーローたちの視線と呼び止める声を振り切り、外周の柵を飛び越え、住宅街の影へと滑り込む。
(捕まるわけにはいかない……!)
公安の駒として。
ヒーローとして。
彼の恋人として――
まだ、果たさなきゃいけない約束が、終わっていない。
けれど。
(……また来る、って)
耳の奥に残る、あの低く呟く声。
それが“予告”だったのか、
それとも“執着”だったのか――
今は、まだわからない。
でも――
私は、あの男たちと再び戦う未来から、逃げられない気がしていた。