第17章 死穢と光の狭間で
「壊理ちゃんは、もう絶対に渡さないッ!!」
緑谷くんの叫びが、空間を裂いた。
彼の姿が、まっすぐ治崎廻へと駆けていく。
その少し前、
相澤先生が一歩を踏み出した瞬間――
「……っ……く……!」
彼の動きが、極端に遅くなった。
(……クロノ……!)
彼の個性、“クロノスタシス”。
時の刃が、見えない糸となって相澤先生を絡め取っている。
動こうとして、動けない。
焦燥がその横顔を滲ませていた。
私のすぐ後ろには――
深く傷ついたミリオ先輩が倒れていた。
彼の呼吸は浅く、腕からも腹部からも血が滲んでいる。
でも、彼は。
それでも、
“私と壊理ちゃん”の方を見ていた。
私のことを“誰か”とはわかっていない。
けれど――その瞳は、どこか安心していた。
(……バレてない……でも)
胸が痛い。
この人が命を賭けて守ろうとしたものを、
私はいまだに“どちらにもなりきれずに”ここにいる。
「君は、誰だ」
ナイトアイの声が落ちた。
鋭くも静かな問い。
その視線が、じっと私を見据えている。
私は、答えられなかった。
どんな言葉も、あまりにも偽善で。
真実は――全部を壊してしまう。
壊理ちゃんを抱きしめた。
彼女の手が、私の服の裾を握る。
その小さな指が、私を繋ぎ止めていた。
“あなたは、ここにいていい”とでも言うように。
その温度だけが、
今の私に――ヒーローとしてここにいる理由を与えてくれていた。