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【ヒロアカ】re:Hero

第17章 死穢と光の狭間で



バッ、と風が走った。
背後から、鋭い気配が突き刺さる。

振り返る間もなく、
通形ミリオ先輩が、勢いよくクロノへと飛びかかった。

「壊理ちゃん!! 今助ける!!」

その叫びは、真っ直ぐだった。
まさしく“ヒーロー”そのものの声。

クロノが反応しようとするより早く、
ミリオの拳が一閃し、地面を叩き割るように飛ぶ。
治崎のマントが風で揺れる。


私は咄嗟に壊理ちゃんを抱き寄せた。
彼女が小さく震える。


『……大丈夫。私は、ここにいる』

彼女の細い肩が、ぎゅっと私にしがみついてくる。
誰が来ても――この腕だけは、離さないと決めていた。


「壊理ちゃん!! 来て!!」

通形先輩の声が飛ぶ。

けれど壊理ちゃんは動かない。
私の胸に顔を埋めたまま、小さく首を振った。


その身体は、強く、確かに私にしがみついている。
小さな指が、私の服をきゅっと掴んで、離そうとしない。


「……壊理ちゃん……?」

通形先輩の声が、戸惑いを含んだものに変わる。


でも、壊理ちゃんは動かない。

私の胸に顔を埋め、震えながらも、私の腕を離そうとはしなかった。
服の裾をきゅっと握りしめるその手が、何よりの答えだった。


その時。


治崎廻が、静かに言葉を落とした。

「……あの日、見逃したお前より」

その言葉に、通形先輩の動きが一瞬だけ止まる。


「壊理は、その女の方が安心するようだな」

冷たくも、どこか確信を持った声音だった。

事実を淡々と告げるだけ。
そこに怒りも感情もない。
ただ、見たまま、知っているままを言っただけのように。

でもそれは、何よりも強く響いた。


通形先輩の拳が、わずかに震える。

私は、壊理ちゃんの小さな背中を抱きしめ直した。
何も言わずに。
言葉にならないものすべてを、ただその腕で受け止めるように。


「……壊理ちゃん……」

再び名前を呼ばれても、彼女は私にしがみついたまま動かなかった。


――その瞳に映る“ヒーロー”は、
まだここでは、私だった。
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