第17章 死穢と光の狭間で
『……全部、知ってるんですか?』
笑ってしまった。
張り詰めていた空気の中で、ふと力が抜けたように。
彼の目を見て、そう問いかけた。
治崎はわずかに目を細める。
そして、低く、淡々と答えた。
「……俺は、死穢八斎會の若頭だ。
それなりに“情報”は掴んでるだけだ」
事も無げにそう言う彼の声に、私はさらに小さく笑う。
『……それなのに、私をそばに置くなんて。
あなたこそ、変わってますね』
彼は少しだけ目線を落とし、静かに言葉を返した。
「……お前ほどじゃない」
そして次の瞬間――
彼の指が、私の胸元へと向けられた。
心臓の、少し上。
公安から取り付けられた、追跡装置がある場所。
「明日……全てが終わったら」
「お前の、そこにある装置を外してやる」
言葉の意味が、胸に深く染み込んだ。
それは、“信用”だった。
それは、“選択”だった。
彼の目は真っ直ぐで、もう迷いはなかった。
そして私もまた――
心の奥で、何かが静かに決まっていくのを感じていた。