第17章 死穢と光の狭間で
その夜も、私は治崎廻の部屋に呼ばれた。
いつもと変わらない、冷たく無機質な部屋。
同じ椅子、同じ距離。
けれど、彼の目が違っていた。
座ったままの私を、治崎はじっと見つめた。
ただ目を逸らさずに、まるで何かを探るように。
そして、ゆっくりと私の頬に手を添える。
そのまま、しばらく動かなかった。
沈黙が続く。
触れているはずなのに、そこには何の衝動も暴力もなかった。
ただ、確かに――重さがあった。
そして、低く静かな声が落ちる。
「……明日、ここで少し乱闘がある」
「お前は容姿を変えて、俺のそばにいろ」
その一言に、私は心の奥がざわつくのを感じた。
(……知ってる……?)
公安の情報が、すでに彼に伝わっている。
それとも――もっと深く、何かを見抜いているのか。
それでも、私は表情を変えずに返す。
『……このままだと、都合が悪いんですか?』
ほんの一瞬、彼の目が細められる。
「……俺じゃなく、お前の都合が悪いだろう」
まるで、すべてを知っているかのような口ぶりだった。
心の奥を、静かに刺してくるその声。
私が何を選ぶのか――その“先”すら見透かしているかのようだった。