第17章 死穢と光の狭間で
朝の光は届かない。
この場所にあるのは、機械仕掛けの照明と、コンクリートの壁だけ。
その中で、壊理ちゃんはいつものように、無言で食器を見つめていた。
私は隣に座って、にんじんの入っていないスープをそっと置く。
『……温かいうちに、食べよ?』
壊理ちゃんは小さくうなずいて、静かにスプーンを持った。
食器の音が、空気の中でやさしく響く。
変わらない時間。
変わらない沈黙。
でも私は、今だけは、どうしても言葉にしたかった。
『……ねえ、壊理ちゃん』
彼女が顔を上げる。
私は、優しく笑った。
そしてほんの少しだけ――声を落とす。
『……あと、2日だけ。頑張ろう?』
壊理ちゃんの手が止まった。
『そのあとにはね、
きっと“壊理ちゃんが笑える世界”に、ちゃんと連れていくから』
壊理ちゃんは、一瞬だけきょとんとした顔をした。
意味は、きっとよくわかっていない。
でも――その顔は、ほんの少しだけ、やわらかくなっていた。
「……そっか」
小さく、ぽつりと。
その声に、胸が締めつけられる。
私は心の中で、固く誓った。
(……公安が言わなくてもいい。
この子を見捨てる指示なんて、私には関係ない)
(私が、連れていく)
(どんな命令よりも、どんな損得よりも――)
(私が、あの子を守る)
それが、ヒーローでありたいと願った“私”の、選んだ答えだった。