第17章 死穢と光の狭間で
あの日を境に、毎晩決まった時間に呼ばれる。
2人きりの無機質な部屋の中で、彼はマスクを外し、静かに私の頬に触れる。
その指先の冷たさと温もりのあいまいさに、心がざわつく。
私の中にいるのは、ただひとり。啓悟だけ。
けれど、会えない。
あの温かな羽根に触れられない現実が、私の思考をじわじわと蝕んでいく。
彼の瞳は時折、寂しさを帯びている。
その目に、なぜか――幼い頃の自分を重ねてしまう。
心の奥に残る、孤独と絶望と、それでも誰かに気づいてほしかった小さな祈り。
同じ色が、そこにあった。
だから私は、拒絶することができなかった。
放っておけなかった。
「………おまえの中には、誰がいる……?」
冷たい部屋に響くその言葉に、答えを探す。
胸の中で何度も繰り返す。
(……啓悟だけ。 私が想うのは、彼だけ……)
でも、その言葉が上手く言えなくて、私はただ黙る。
彼の手は頬から離れず、静かに、近くで見つめられる。
「……はっ…まぁ誰でもいい。
今ここでおまえに触れてるのは俺だけだ」
その声は、まるで鎖のように私の心を締め付ける。
私も、彼の存在を拒めなかった。
けれど、啓悟に会いたい。
彼だけが私の支えだ。
夜の静寂に包まれながら、私の胸は苦しくて、でも暖かかった。
“あの人”だけが、この心の居場所だと、
改めて痛感させられる夜だった。