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【ヒロアカ】re:Hero

第17章 死穢と光の狭間で



治崎は、黙って私を見ていた。
静かな視線の奥に、何かがひたひたと揺れている。

そして低く、静かに、問いを落とす。


「……お前は、そんなヤツらをなぜ殺さない?」


一瞬、呼吸が止まる。
でもそれはまだ、終わりではなかった。


「逆になぜ助けた。……俺に対しても、そうだ」


彼の声は、冷静で、理路整然としている。
怒りも、感情もない。
ただ、本気で“理解しようとしている”声だった。


「お前の力であれば、逃げることなど、容易いはずだ」


それが事実だと、私も知っている。
この個性があれば、殺すことも、逃げることも、簡単だ。

実際、やろうと思えばできた。

けれど私は、黙るしかなかった。


確かに、壊理ちゃんをあの部屋から奪うこともできた。
死穢八斎會の人間を一人残らず沈めることも。

けれどそれをしないのは、
私が……ヒーローでありたいと思っているから。

そして――

“彼”を、守るため。
"彼"の隣に堂々と立っていたいから。


けれどそれは、
この場所では、決して口にできない。

私はただ、視線を伏せたまま、何も言わなかった。


沈黙が落ちる。

それでも、治崎はあきらめなかった。

しばらく私を見つめたまま、
低く、息のように言う。


「……こっちへ来い」


顔を上げた。

 
治崎は席を立ち、ただそこに立っていた。
私は、ゆっくりと歩み寄る。

床がきしむ音すら、吸い込まれていくようだった。


彼の前に立つ。
次の瞬間。


その手が、再び、私に触れた。

けれど――

今度は、白い手袋がなかった。

『……っ』

息が詰まった。
喉元に添えられたその手は、直接、皮膚に触れていた。


(ああ……)


壊される。
そう思った。

この人は、不要なものを壊す。
理解できないものを排除する。

だから、今度こそ――。


けれど。


何も起きなかった。


指先に、圧はない。
皮膚が裂ける感覚も、痛みも、なかった。


ただ、触れているだけだった。

治崎の手が、私の首に触れたまま。
その目が、何かを見失ったように、私を見つめていた。

そして――その瞳が、初めて揺れた。

彼自身も、驚いていた。


壊れなかったことに。
触れられたことに。


それは、どちらにとっても、
“想定外”の出来事だった。
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